完璧からはほど遠い

「仕事が出来ないのは別にいい、そこにやる気があるなら。一生懸命やって出来ないならフォローするつもりだったけど、全然そんなの感じられないんだよね。今も、朝からみんな集中して仕事してる中でカレーの味の感想聞きに来るってさ。それに加えて、トラブルを巻き込むようなことばかりしてる」

「え、何のことですか」

「散々君が裏で煽ってた彼のことはもう片付きました。プライベートなことを持ち込んでもめごとを起こすような人ははっきり言って迷惑」

 高橋さんはようやく気が付いたようだ、大和のことだと分かったんだろう。凄い形相で私の方を睨みつけた。今泉さんが小声で「こわ」と呟いたのが耳に届く。そんな彼女に、成瀬さんはさらに追い打ちをかける。

「なんで佐伯さんを睨んでるの? 今話してるのは俺だよ」

「睨んでなんかいません! 成瀬さん何か勘違いしてませんか? 私は前佐伯さんに怒鳴られたこともあるし、きっと嫌われてるんです。佐伯さんが成瀬さんに嘘を言ったんですよ、信じてください……」

「俺人の財布から免許証勝手に取る人間は信じられないなあ」

 高橋さんはぴたりと止まった。瞬きすらせずに、ゆっくり首を傾げる。

「……ええ? あれは間違って紛れ込んで」

「店の人に監視カメラ見せてもらった」

「は」

 やはり真実だったのか、彼女は停止したまま言い返さなかった。頭の中でどう切り抜けようか必死に考えているようにも見える。そんな相手を、成瀬さんは笑った。

「ハッタリだよ、その様子じゃやっぱりそうだったんだね」

 ハッとした顔になる。そして彼女は拳を握り、わなわなと震えさせた。そして涙声で叫ぶ。

「ひどい! 何でそんなこと言うんですか!」