家に戻った時、時刻は二十二時を回っていた。何もないあのマンションに戻ってくる。私は心臓を痛いほどに鳴らしながら帰宅した。持ってきた荷物をとりあえずリビングの隅に置き、ちらりと成瀬さんを振り返る。

 彼は特に意識している様子はなかった。むしろ他ごとを何か考えているように真剣な表情でいる。私一人舞い上がっているんだろうか。

「あ、あの、成瀬さ」

「そうだ、お風呂先入ってね。あ、風呂沸かしたいかな? 俺いつもシャワーでさ」

「でしょうね、成瀬さんが浴槽洗ってる姿想像つきませんから」

「そこのところは任せるから、どうぞお先に」

 自然な言い方でそう言われ、私は小声でお礼を言った後着替えを持って洗面所に行った。まあとりあえずね、お風呂ぐらいは入らないとね。

 物が圧倒的に少ない洗面所で服を脱ぎ、そっと浴室へのドアを開けてみる。よくあるタイプの風呂場なのに、自分はなんだか恥ずかしくてたまらなかった。顔が熱い自覚がある、何を一人で盛り上がっているんだ私は!

 とりあえずお湯を出して温まる。さてシャンプーを、と思ったところで、昨日は沙織に借りたので自分は持っていないことに気が付いた。

 となれば……

「お、お借りしてもよろしいでしょうか……」

 一人で返事のない質問を述べた後、置いてあったシャンプーを手に取った。特にこだわりもなさそうな、メジャーなところのシャンプーである。多分、薬局とかに一番目立つところに置いてあったから買った、とかだと思う。