ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 神楽は釘を刺したつもりだった。

 「ふーん。それは、男女交際は禁止とか、どこぞのアイドルグループみたいなことじゃあるまいな?」

 茶目っ気たっぷりにこちらを見ながら聞いてくる。

 「いや、まさか。ただ、恋愛がうまくいかなくなったり、それに溺れて感情的になる女性ピアニストが結構いる。こちらはビジネスだ。オーケストラやチケットも一年以上前から予約が入っている。そういった理由で弾けないとか契約問題に発展する」

 「それはそうだろうな。神楽も大変だな。そういえば、お前結婚は?」

 「まだだ。彼女もいない。それこそ、堂本はどうなんだ?見合いとか死ぬほどあるって大学の時から言ってただろ?」

 「……俺はあんまり女性に興味がないのは大学時代から知っているだろ?」

 そう言えば、そうだったかも知れない。周りを女が囲んでいたが、特定の女性と付き合っているということは四年間聞いたことがなかった。