ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「……そうなのね。じゃあ、男の子なら黎が考えていいわよ。女の子だったら私が決めるってことでいい?」

 「百合がそれでいいならそうしようか」

 「ええ。きっと男の子だったらお父様が何か言ってきそうだと思ってた。なるほどね。漢字一文字。お父さんも一文字だものね」

 運命の出産まで、性別は教えてもらわないつもりだったのに、黎が担当医に聞き出してしまった。お父様と飛び跳ねて喜んでいる。つまり、男の子だったということだとすぐにわかった。

 生まれた男の子は黎が『匠』という名を付けた。

 不器用な百合は、本人も心配していたとおり、子育てとピアノの両立に悩みはじめた。残念なことに、それだけでいっぱいになってしまい、黎のことは少し頭から消えていたかもしれない。匠の登場で、黎はまたもや百合を奪い合う相手が増えた。四角関係になったのだ。