ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「……無理。絶対そんなにできない。どうしよう」

 「百合。契約のときはやるって言ってただろ。今更何言ってんだよ」

 「え?そうね、あのときはだってやるって言わないと黎といられなかったから、あんまり深く考えてなかったの」

 「……は?」

 「ねえ、黎。きちんとできなくても、許してね。怒らないでね」

 「百合、お前……」

 「絶対出来ないかもしれない。子供が可哀想かも……私、片親で育っているし、貧乏だったから普通の家庭知らないし」

 「何言ってんだよ。普通じゃないのはうちも同じだよ。お前のお父さんほどじゃないにしても、うちの父も結構問題ありなんだ。そのうち分かる。母から話があるだろう」