ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 百合が手を繋いで俺の顔をのぞき込んで言う。

 「神楽なしでも出来るぞ。うちのほうでそういうことをする部門を作るつもりなんだ。俺はいずれ堂本のコンサートホールを作るのが夢だからな。音楽プロダクションは社内に作りたいんだよ」

 「……本気なの?」

 「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる?やると言ったらやるんだよ」

 ニヒルに口角を上げて笑う黎を見て百合は呟いた。

 「私の旦那様はスーパーマンなのね」

 「そうだ。百合はスーパーウーマンになるんだぞ。社長夫人とピアニスト。家では俺の妻で子供の母だ。忙しいぞ」

 百合はぬいぐるみを顔の前に置いて、立ち止まってしまった。