ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「こら、商品をそんな風にしたらだめだろ」

 「いいもん。これは、買うから。黎の代わりに連れて歩く。地方や海外リサイタルの時、一緒に連れて行くわ。そしたら寂しくないもん」

 黎は大きな左手で自分の顔を覆い、下を向いてしまった。

 「どうしたの?」

 「……だから。どうしてそうやって、煽るようなことを言うんだよ。ほら、とっとと買ったら帰るぞ」

 「えー?まだ、静香さん達にお土産決めてない。奈津さんにも……」

 「父さんと母さんはどうするんだよ?」

 「お二人にはもう少し素敵なものを差し上げるの。びいどろ細工とかステキよね」