ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 
 「プールで迷子になりません。真っ直ぐ泳ぐだけだもん」
 
 黎は真面目に言い返している百合に吹き出してしまった。
 
 「百合。ずいぶん泳げるんだな」
 
 百合はエッヘンと自慢げに顔を上げた。
 
 「そうでしょ。小さいときに水泳だけ習ってたの。実はぜんそく気味で治すためだったんだけど、楽しくて。お金がかかるからすぐにやめてしまったけど、ぜんそくはそのお陰で治ったし、泳ぐことが好きになって、それからも気分転換にホテルで泳いだりしているのよ」

 「そういうことじゃない。足腰立たなかったくせに、ずいぶん元気になったじゃないか。手加減の必要はなかったな」

 抱き寄せ腰を撫でる黎に、百合は真っ赤になって、黎の胸を押し返した。