ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「皆さん。私の妻はご存じの通り音楽中心の生活だったので、みなさんの世界のことには不慣れです。ご迷惑おかけすることもあるかと思いますが、多めに見てやってください。そして、知らないことはどうか面倒でも一から教えてやって頂けると助かります。何かあれば私の方にご連絡頂ければ対処しますので、遠慮なくどうぞ……」

 黎がウインクしながら、若い女性達へ冗談交じりに挨拶すると、先ほどの緊張感が消えて場が和んだ。

 黎は母の愛を今ほど感じたことはなかった。百合は横で顔を覆って泣いていた。柿崎に目配せするとうなずいた。その場を彼らに任せて、百合の背中を抱き寄せ、控え室へ百合を連れていった。

 「百合。大丈夫か?」

 黎は控え室に入り、百合を座らせると声をかけた。

 「ええ。嬉しくて……お母様が庇って下さって……最後のお父様の言葉も……」

 黎は、母が彼女を父や周りに認めさせるため、今日に合わせてわざわざ帰国したのだとわかった。父のあの最後のひと言は母に言わされたように聞こえるが、実は本心だろう。契約とはいえ、招待客に息子の嫁をないがしろにされて、いい気分のはずがない。