ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「なんですってえ?」

 「……あ、あの。静香さん喧嘩しないで。私のことなら大丈夫です」

 百合が間に入ろうとした。

 茜たちが、百合の手を引いて、そこから連れ出した。後のことは、静香に任せる方がうまくいく。人目がこちらに集まりはじめたので、百合が原因だと知れたら面倒になるからだ。

 黎は後ろを振り向いて、茜たちに手を取られて出てきた百合を見て、そちらへ急いで歩いて行った。

 エスカレートする静香達の諍いに、男性の声が混じった。

 「失礼。ピアニストを軽蔑するのは軽視できませんね。私は音楽プロダクションを経営していますが、栗原さんは今や日本国内より海外でのほうが知名度も高いんですよ。敵に回さない方がいいと思いますね」