丁寧に挨拶し、頭を下げた彼女に皆一様に見とれていた。

 その後、歓談前に彼女がリストの『愛の夢』を弾いた。

 美しいピアノの音色と彼女のドレス姿に皆が酔いしれていた。ただ、それは一部の反応だったと後になって分かった。

 彼女を連れて挨拶に回っているときは、やはり皆がピアニストとしての活動をどうするのかと同じことを聞いてくる。
 挨拶の時に軽く説明したのに、誰も本気にしていない。

 黎は財界の人達に囲まれてしまって、抜け出せなくなったので、広也を通じて静香に百合を預けた。
 
 「黎君。何もピアニストを嫁にしなくても……時期社長夫人としては何もできないだろ?うちの娘じゃどうしてだめだったんだい?」
 
 父が以前セッティングした見合いの女性の父親だった。黎が当たり障りなく断ったのだった。