すぐ横に立って、彼女の邪魔にならないように聴いている。
こんな美しい音楽を奏でる彼女は俺のもので、今俺だけのために弾いていると考えるだけで黎は幸せだった。そして、曲が終わると彼女の手を取って、話しかけた。
「百合」
「なあに?」
「我慢するなよ。何でも俺に話してくれ。それから怖がるな。お前には俺がいる。ひとりで悪い方へ考えないこと……百合の悪い癖だぞ。俺にすべて任せて百合は何も考えないで側にいればいいんだ」
「あなたがすごい人なのはよく知ってる。今までだって全部あなたに頼り切りだった。夢じゃないのよね?私、黎の奥さんになったのよね。ずっとここにいたい。お父様から嫌われたくない」
黎は百合の心の声を聞いた気がして、はっとした。



