百合は大学でひとしきり詮索されて、生い立ちのことも何気なく聞かれたりした。これからのことを考えると気が重かったが、黎と一緒に過ごせることが何よりだと今は自分を納得させていた。
玄関のドアの開く音がした。
黎が入ってきた。百合はピアノの前から立ち上がって、彼に抱きついた。
「黎。今日は忙しくて夜はお付き合いが入っていたんでしょ?」
「新婚の俺の夜を邪魔する奴は絶対に許さん。追っ払って帰ってきたよ、奥さん」
そう言って、百合にキスをひとつ落とした。
「大好き。黎……」
黎は甘える百合をピアノの椅子に座らせて、自分も横に座るとドビュッシーの『月の光』をリクエストした。



