必要なものだけをピックアップし、彼女でなくてもいいものはいとこの妻に頼んだり、子会社の社長夫人に頼むなどすでに手を回していた。残る仕事は大口のみ。
 
 社交界の女性達が会話をマウンティングに利用しているのもわかっている。百合自身はピアニストとしての地位がすでに社会的にあるのでそこへわざわざ入る必要などないと感じていた。それに何より、黎は社交界での夫人によるアシストなど必要なかった。同年代の時期社長候補の中では経済界で筆頭といわれる有能な二代目だった。
 
 まずは、大口の社交界、経済関係者を片付けなければならない。黎はとりあえず、財界向けと社内取引先関係者向けで百合のお披露目パーティーを数カ所でしようと考えていた。父親である社長もそれには同意した。
 
 百合はその夜、マンションの方へ来ていた。本邸にはピアノがない。元々あったそのピアノがここに運ばれたからだ。お披露目会でピアノを弾くので練習が必要だった。日にちが近づいて来ていたのでこちらに泊まりたいと頼んだ。

 忙しい黎の父親とは、食卓でたまに顔を見ることがあっても話すことはなく、よそよそしかった。黎も結婚を表明したせいで、お祝いに呼ばれたり、お礼に行ったり、百合のために根回しをしたりと忙しい毎日だった。