百合は驚いて顔を上げた。
「……なんなのこれ……」
黎は歪んだあの笑顔で話す。
「『契約結婚』の契約書だよ。君と俺の……」
「黎!」
百合は驚いて立ち上がった。
「落ち着け。君が心配していることを払拭するためにするんだ。だいたい、俺と百合は友達になんて戻れない。そう考えるだけでもおかしくなる。そうだろ?」
百合は黎をじっと見た。口を挟める雰囲気ではない。黎をここまで追い詰めたのは他ならぬ自分だからだ。留学の話をしたことで、黎はさらに冷たくなった。今は彼の言うことを素直にとりあえず聞いてみるしかないと諦めた。



