ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 百合は黎を自分から抱き返した。

 「ごめんなさい。自分のことで精一杯で、あなたから離れることしか頭になかった。考えると悲しくて……でもこの先を考えるのも辛かった。あなたを守りたいの」

 「守られる必要などない、それにお前を守るのが俺の仕事だ。こっちへ来い」

 そう言って、百合をリビングのソファへ連れて行き、座らせた。自分と同じ水割りを作り、彼女の前に置いた。百合はこわごわとお酒を一口飲んで、ふうっと息を吐いた。

 「百合。提案がある」

 そう言って、数枚の紙を彼女の前に置いた。
 見ると契約書とある。
 『甲 堂本黎 乙 栗原百合 第一条 甲と乙は一年毎に契約を交わし、結婚するものとする……』と書いてある。