ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「百合。あのメールはどういう意味だ?希望通り友人になって迎えてあげたのに君は泣いている。あのメールを見たときの俺の気持ちがわかっただろう。俺はあのメールを見た瞬間意識が飛んでね。おかしくなってしまった。携帯電話も壊したし、壁に穴があいた。机も傷が付いた」

 百合は、黎の見たことのないような歪んだ笑顔を見た。自分の送ったメールで彼がどれだけ傷ついたのか、ようやくわかった。そして、同じことを返されて自分も許容できずおかしくなってしまった。

 また、涙が流れてきた。もう、どうしたらいいのかわからない。百合は顔を覆って泣き出した。
 黎は彼女の心が壊れかけているのにようやく気付いて、抱きしめ、耳元で囁いた。

 「百合、愛してる……会いたかったよ」

 百合は欲しかった言葉をようやくもらえて、泣き濡れた顔を上げて彼を見た。優しい瞳。欲しかった言葉。もうひとつ欲しかったものを自分で無意識のうち取りに行った。彼の唇に自分からキスをした。