神楽とも相談したが、パリに留学したいと言った。黎を忘れるには距離を置くしかない。会えない、見えない場所で彼を自分から引き離すしかないのだ。

 神楽もそれには理解を示すしかなかった。そして、彼女が戻ってくるときには自分が代表となっている事務所へ彼女を雇いたいと申し出た。神楽にも覚悟があった。そのときこそ、プロポーズしたいと思っていたのだ。

 それを聞いた百合は何も言わなかった。
 
 じつは、神楽と百合は大きな勘違いをしていることに気付いていなかった。
 
 堂本黎には百合がいなくてもいくらでも周りに女性がいて、父親が連れてくるやんごとなきお嬢様と結婚するのだと思っていたのだ。彼にとって、百合と別れることはたいしたことでないはずだと決めつけていた。

 その大きな勘違いに気付くのは、日本へ戻ってすぐだった。
 空港で百合は柿崎という見たことのある黎の部下から迎えられた。