「社長のことを、あの人は本当に困った人ね、と……女性を泣かせるのはだめだと黎様に伝えてと言われたそうです」
母の声が耳に聞こえるようだった。このままでは、帰ってきた百合を泣かせることになるもしれない。彼女がプロポーズに応じないだろう。これだけ噂や父の反対があれば、神楽だって反対する。
黎はそれから考えた。どうすればいいのかを……。
部屋でその時も考えていた。すると、久しぶりに百合からメールが来た。嬉しくてすぐに見た。ところが、近況を綴り、自分のことを聞いた後、最後に信じられない一文を見つけた。何度も見間違いかと繰り返しそこを読んだ。
『日本の状況は耳にしています。黎、迷惑かけてごめんなさい。あなたとは今日を限りに友達へ戻ります。来週日本に帰ったら、その時は友人として迎えて下さい。私は誰に何を聞かれてもあなたは大切な友人だと伝えます』
黎は携帯電話を放り投げた。そして、手で頭を覆い、狼のようにうなり声を上げた。
「うああー!!」



