「……お前。見合いをやめると言った一年の期限と今回の出資。全部、そのピアニストのためだったんだな」
睨み付けられても、黎は怯まなかった。
「そう取られても言い訳できないのはわかっています。でも、会社にとっても、父さんにとっても母さんの代わりをこの事業がしてくれているはず。褒められるならまだしも、怒られるとは思ってませんでした」
黎は父親をしっかり見据えて話した。父は驚いた。黎がこんな目をして自分に向かってきたのは初めてだったからだ。女っ気のなかった息子が初めて好きになった女性。それだけ、その栗原百合というピアニストを愛している裏返しだとわかった。
「俺が言いたいことはわかっているはずだが。お前、あの娘の後ろに何があるか知らないわけでないだろう」
そうきたか。やはり調べたんだなと黎はため息をついた。
「ええ。知っていますが、何か問題でもありましたか?」



