ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない

 
 百合は、地方の二公演のうち、必ず一公演は見に来る黎を待っていた。そして、思う存分甘えた。彼との恋愛は期限付きだと気付いたからに他ならなかったのだが、黎にはわからなかった。
 
 黎は百合が何故こんなに素直に自分に甘えるのか不思議に思いながらも、素顔を見せてくれることが嬉しかった。会える夜は全身で黎を愛していると囁き続ける彼女を黎自身も周りが見とがめるくらい愛し始めた。

 手を繋いで出てきたり、肩を抱いていたり。いずれ、すぐに噂になると神楽は諦めた。そして、その時が別れのときになるだろうと思っていたのだ。

 彼女の地方公演が終わる頃、黎は父親に呼び出された。

 「黎。お前、栗原百合というピアニストと付き合っているのか」

 「ええ。そうです」

 悪びれもせず答える息子を見て、父は机を叩いた。