ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 百合は嬉しそうにしたが、少し黙ってから、答えた。

 「……白なんて。私は劣等感と育ちのことでかなり歪んでいる自覚があるの。黎さんのような素晴らしいおうちの御曹司とお話しできるような身分では本当はないのよ」

 黎は驚いた。普段の百合からは見られない顔を見せたからだ。お酒のせいもあるのかもしれないと思った。

 「何言ってるんだよ。あんな賞を受賞してどうしてそんなことを言うんだい?君は世間的にも立派なピアニストだろ。もっと胸張っていいんだよ。静香が言ったことなんて気にすることない。あいつは昔から無神経だからね」

 百合は呼び捨てにしている彼女と黎との関係を考えると、寂しかった。それに、社長令嬢である静香のあの様子を思い出すと、自分とはますます違う世界だと再認識せざるを得なかった。忘れていたが、噂されているという話も彼女の心に暗い影を落とした。

 黎は目の前の百合が静香のはなしでさらに顔を曇らせたことに気付いて、自分の馬鹿さ加減に呆れた。