ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 ピアノを弾きながら、音楽を聴きながら、食事をしたり、お酒を飲んだり出来るのだ。

 小さいときはソファで寝てしまったこともあった。
 そんなときは母がブランケットを掛けてくれた。

 また、このピアノが歌っている。しかも、黎の好きな女性が奏でている。
 それだけで、黎は幸せだった。

 百合は黎が入ってきて食事の準備をしているのも忘れるほど、熱中して弾いている。
 黎は曲が終わるまで準備が出来ても声をかけずに待っていた。

 最後の音を弾き終わると、心が戻ってきたのか、百合がようやくこちらを向いた。
 黎は拍手をした。百合は嬉しそうに笑ったが、テーブルを見て表情を変えた。
 
 「あ、ごめんなさい。お手伝いもせずに……」