ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 タクシーの中にもかかわらず声を上げてしまい、シーンとなった車中でお互いに顔を見合わせ赤くなる。

 タクシーの運転手は何も言わないが、恥ずかしいことこの上ない。
 着くまではお互い何も話さず静かにしていた。

 「わあ、ステキね……夜景が綺麗。それにこのピアノ、すごいわ!」

 彼女をピアノホールへ案内すると、白いグランドピアノへ近づいて、歓声を上げた。

 振り向いた目がキラキラと輝いている。どれだけ彼女の興味を引いたのかすぐにわかった。

 「弾いていいよ」

 「ほんと?」

 「ああ。適当に食べ物頼んで準備しておくから、それまで弾いていてくれていい」