「そうだったんですか……それは大変ですね。でも、それがこれから行くところと関係あるの?」
黎は彼女の顔を見た。
「母は音楽が好きでね。マンションに部屋を借りてグランドピアノも入れていた。防音設備まで整えて夜も弾けるようにしていたくらいだ。その部屋の管理を母から任されたんだが、ピアノは弾かないと悪くなるって言うから、良かったら君が暇な時に弾いてもらいたくてね。それで連れて行きたいんだ。ダメかな?」
すがるような目で自分を見る黎を、百合は拒絶できなかった。しかも、お母様の話を聞いたらとても嫌だなどと言えない。
「……わかったわ。一緒に行きます」
黎はほっとして身体の力が抜けた。
「……はー」



