「結婚って?」

「今の旦那さんと離婚したら結婚しよう」

「それまで待ってるの?」

 ゆうくんは当たり前のように「うん」と答えた。

「そんな男からはたんまり慰謝料と財産分与をぶん取って良いと思う、後悔させてやろうよ。優香にひどい事をしてきたことを」

「それは、うん……」

「良いこと思いついたんだ」

 ゆうくんは悪巧みを考える子供のようにニヤリと笑う。

「僕たちの子供を作ろう」

「え?」

「旦那さんは子供を欲しがってる、だから優香は妊娠するんだ。でもそれは自分の子供じゃなくて僕の子供」

「え、え?」

「何も知らずに他人の子供を可愛がる男、そして六年五ヶ月後には離婚。多額の財産と子供を手放した時に自分の過ちにやっと気がつく、でももう手遅れ」

 私はその突拍子もない提案が実現可能か瞬時に計算した。ピルを服用している限り夫との子供はできない。

 ゆうくんの子供を妊娠して「赤ちゃんできたの」と言えば夫は疑うことなく我が子と思うだろう。

「離婚したら僕と結婚しよう。本当の家族がそこから始まるんだ」

 どうしよう。すごく良いアイデアに思えてきた。何より彼が既婚者の私を受け入れてくれた事が嬉しかった。

「それで、それでゆうくんは良いの?」

「ああ、僕は優香と一緒になれるならそれで良い。それにそれだけの大金をゲットするチャンスは中々ないよ、このチャンスを逃す手はない」

 十年という期限を作る事で今まで何とか耐えてきた、それも限界だと感じていたけど。

 いるなら。待っててくれる人が……。

 まだ、耐えられる。

 それに欲しい。ゆうくんの子供。

「あの……」

「ん?」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ!」
 
 結婚している女にプロポーズする男、それを受ける女。いびつに歪んだ私たちのそれを愛と呼んでも良いのだろうか。

「そうと決まれば早く作ろう、出来やすい日とかあるんでしょ?」

「う、うん。ちょっと待って」

 私はアプリを立ち上げて生理周期や、前回の生理日を入力する。すぐに妊娠しやすい日が計算されて表示された。

「今日から五日間くらい」

 タイミングよくカレンダーに付けられた丸、スマートフォンの画面をゆうくんに見せた。

「まじか! よし、こうしちゃいられない。すみませーん! お会計」

「え、もう出るの?」

「ああ、僕たちの子供を作らないと」

 その日、私たちは何度も交わった。子作りという大義名分の元、性欲の限りを尽くして。何度も。

 そして、拍子抜けするほどにアッサリと私は妊娠した一一。