鼻歌まじりで洗濯物を干しながら大変なことに気がついた。

 もし、あの二人が本気で付き合い出して私が邪魔になったら即離婚。

 まずい、いま離婚を切り出されても。

 すばやく計算する、年間600万×3年で1,800万に不倫の慰謝料で300万円。

 うーん。目標にはほど遠い。残りの人生を考えてもやはり6000万は欲しいところだ。

 仕方ない――。

 この技はなるべく避けたかったが、いや、そんな事を言ってる場合じゃないか。

 決意するや否や私はクローゼットを漁り、某アイドルの衣装を引っ張り出した。ドンキで売ってたやつ。

 素早く着替えて洗面台に向かうと髪をとかして高めのツインテールを作り、夫が結婚前にどハマりしていたアイドルの一人に寄せた。全然よらないけど……。

 雰囲気はある、こんな時だけは凹凸のない平べったい体は様になる。幼児体型。化粧もそれに合わせてナチュラルにした。

「よし」

 一つ気合を入れると玄関の扉が開く音がする。猫撫で声で迎えた。

「おかえりぃー。二日も会えなくて寂しかったにゃん」

 グーを二つ作って上目遣いで夫を見つめた。夫は一瞬驚いた表情を作った後に、同じようにぐーを作り私のそれにコツンと合わせた。違う、グータッチじゃない。それは原監督。

「どーした。変なもんでも博多で食わされたか?」

 くっ。まるで冷めた対応。そんなにえりこの体が良かったのか。

「好きでしょ、こーいう格好」

「昔はな、それより部屋散らかってた――」

 喋りながらリビングに入る夫、辺りを見渡して目を見開いた。

「すげー、いつの間に」

「あっ、うん。お寿司とか残ってたけど捨てちゃったよ」

「いや、ぜんぜん。やっぱ女は家事が出来ないとなぁ。優香はすごいよ」

 三年の結婚生活で初めて家事を労われた。クソ野郎に褒められてもね……とは不思議と思わなくて素直に嬉しかった。

「いつもありがとうな」

 そう言って抱きしめてきた夫からは香水の匂いが微かにした、シャネルのチャンス。

 むかし、出会った頃に私がつけていた香水。夫が大好きだと言った私の香り。

 今は別の女の匂い――。