部長は真剣な表情で言い、他の先輩たちも頷いた。一番と二番は持ち場に入り、卓球台にラケットを置いてから、タオルをかけた。
 そのあと、お互いラケット交換をした。
 私たちはベンチに座っている位置から見えなかったが、葵先輩は困っていた。
 どうしたんだろうと思っていると、隣からだれかの声がした。
「…あれ、粒高ラバーだからだよ。相手の打ったボールの回転に対して、真逆の回転を打ち返すからね。返し方が難しいんだよ。返した方が悪かったら、どこかへ飛んで、点数は取れなくなる」
 隣に座って、独り言のように呟くのは長谷くんこと長谷先輩だ。
「長谷先輩…」
「あっ、ごめんね。急に……」
 長谷先輩はごめんねと人差し指を鼻につけて、申し訳なさそうに言う。
「いえ……。じゃあ、負ける可能性もあるっていうことですか」
 私は長谷先輩に聞く。一年全員は試合が始まったので、夢中で見ていた。
「…それは分からないよ。やってみないとね……」
 長谷先輩はニヤリと笑って答えた。
 自分で経験してきたことを思い出して、相手と戦うしかないということか。
 私は葵先輩を見ると必死で戦っていた。
 相手のラケットと睨むようにボールを返していた。相手とはいい勝負だった。
 一セット目は相手が勝利。二セット目は葵先輩が勝った。三セット目は時間がかかったが、葵先輩が勝った。ため息をしながら、先生たちがいる所にガッツポーズをしていた。
「いいぞ! 頑張れ!」
 先生は手を叩いて、笑顔で葵先輩をほめた。七海先輩は、負けてしまったみたいだ。
 先生はくやしそうな七海先輩に右肩をポンポンと叩いて慰めた。
 次に、ダブルスペアと築・花音先輩はシングルで参加する。
 持ち場についた先輩たちはラケットを握りしめて戦っていた。
 一番苦しそうだったのは築先輩。
 相手は築先輩をいじめていた恵美という同級生だった。