今日も大量の魚を、皆で手際良く捌いていく。

並んで作業するこの時間に、他愛もない話をしたり、冗談を言って笑ったり、時には愚痴をこぼし合ったりと、皆とコミュニケーションを取るのが心は好きだった。

今も数人が、ゴールデンウィークの愚痴をこぼしている。

「俺、ニュースのアレ見るのが嫌なんだ。空港でインタビューしてるやつ」
「あー、あれな。これからどこへ行くんですか?ハワイですぅー、とっても楽しみですぅーってやつ」

妙にぶりっこな口調に、皆で笑う。

「まあまあ。そんな中、うちに来るのを楽しみにしてくれる人もいる訳だしさ。俺らのショーを見てくれるのだって、その人にとっては人生で1度切りになるかもしれない。毎回、しっかり頑張ろうな」

桑田の言葉に、はい!と皆で返事をする。

「でも…佐伯さん、大丈夫ですかね?」

ポツリと、心の隣に立つ先輩が呟く。

「その、あの時のことがトラウマになってたり、怖くて飛べなくなったり…なんてことは」

皆は一様に押し黙り、静けさの中、包丁で捌く音だけがする。

「それは俺も注意深く見守る。だが、復帰はいつになるかは分からない。みんなも、しばらくは佐伯抜きでショーが出来るよう、協力してくれ」
「はい」

皆で返事はしたものの、雰囲気は暗いままだ。
しばらく続く沈黙の中、心はゆっくり口を開いた。

「私は、佐伯さんを信じます。今は心も身体も大きなダメージを受けていると思うし、決して無理はして欲しくないですけど。でも、佐伯さんは必ずいつかまた飛べるようになる。だって、あの難しい技を、ルークと一緒に何度も練習して習得したんだもの。その時の感覚や喜びを、佐伯さんはまだ覚えているはずです。それに何より、きっと佐伯さんもルークも、また一緒に飛びたいと思っていると思います。だから私は、佐伯さんとルークをサポートします。少しずつ少しずつ、また練習を積み重ねていって欲しいです」

黙って聞いていた桑田が、ああ、そうだなと呟き、他の皆も頷いた。