えっと、花村くんはどこから読んでいたっけ。大体いつも3行くらいで交代だから、たぶんこの辺り……。自信はないけど、どこからですかと先生に聞く勇気もない。
間違っているかもしれない不安を抱えつつも席を立とうとした瞬間、つん、と右隣から腕をつつかれた。
当たり前だけれど、それをしてきたのは花村くんで。でもどうして? と思っていれば、
「5行目」
「え、」
「〝ところが〟から」
花村くんは自分の教科書をこちらに向けて、読むべき文章を指でさしてくれた。それは私の読もうとしていた、ひとつ前の文だった。
「柚原さんー? 大丈夫?」
「、あ、大丈夫です、すいません。えっと、ところが――」
先生に名前を呼ばれて、慌てて立ち上がる。そして教えてもらったところから読み始めて、3行ほどで前のひとへ交代となった。
それからこのタイミングで、先生が前に出てきて。教科書を持ちながら教室内を歩き始めた。きっと、誰か寝ていないか、スマホをいじっていないかの確認だろう。
そのため、声に出してありがとう、とは言いづらくて。だからぺこりと、小さくお辞儀をした。そうすれば返ってくるのは、さっきもらったばかりのふわりとした微笑みで。
また、きゅんとする。よし、授業が終わってから、ちゃんとお礼を言おう。
今日の分の音読は、私の前の前の子で終わって。先生もまた、教壇に戻る。そして次に隣を見た時には、花村くんは眠っていた。


