「……なぜだ」
案の定、頗る低い声が返ってきた。
怖くて顔が上げられない。
でも、こちらも絶対に引けない理由があるのだ。
「明日、仕事で大事な会議があるんです!」
そのためにここ数日寝食を削り頑張ってきた。
それに無断欠席なんてしたら皆に多大な迷惑が掛かってしまう。
「そ、そうですよ。一生の問題ですもの。コハルにも色々準備があるはずですわ!」
ティーアが助け船を出してくれる。
「そうだそうだ! まったく、これだから竜人族は。コハルさまの気持ちも少しは考えろってんだ!」
続けて私の腕からすぽんと飛び立ち、急に性格が変わったように口悪く言ったのはメリーだ。
そういえばメリーは7年前も彼のことをあまり良く思っていなかった気がする。
ひやりとするが、彼からの反応がない。
「……?」
恐る恐る見上げると、彼はまたあのふてくされたような顔をしていて。
「……俺の元に来るのは、嫌か?」
――うぐっ!
ズキューンと胸が妙な痛み方をした。
急に、7年前のあの少年を彷彿とさせるいじらしい台詞を口にするのは反則ではないだろうか。
……だから、つい言ってしまったのだ。あの頃のように。
「い、嫌ってわけじゃ」
「なら、」
「で、でも! やっぱり色々と準備する時間は、欲しいっていうか……」



