「――ル……コハル! おい、コハル!」
何度も名を呼ばれ身体を揺すられゆっくりと目を開けると、心配そうな顔がこちらを覗き込んでいた。
まだ幼さを残した丸みを帯びた輪郭、そして大きな金の瞳。
「リュー、皇子……?」
その名を口にすると、彼はホっと安堵した顔をした。
「急に倒れるから、驚いたぞ」
「あ……すみません」
起き上がろうとするが、力が入らなかった。
私は彼を見上げて苦笑する。
「聖女の力を使うと、いつもこうなってしまうんです。時間が経てば回復するので大丈夫です」
「そう、なのか……」
彼は掠れた声で小さく呟き、それから周囲を見渡した。
「まあ、これだけの威力だ。そうなってもおかしくはないな」
私も首を回し、でもすぐそこに黒こげになった大きな塊が見えて急いで目を閉じた。
――きっと今、私たちの周りにはたくさんの魔物たちの死骸が転がっているのだろう。
つい先ほど、森を抜けたところで私たちは魔物たちの急襲に遭い、私はこの聖女の力を使った。
こうなってしまうのはわかっていたから極力使いたくはなかったけれど。
私がこの世界で手にした『聖女の力』は威力は凄まじいがその分こんな反動がある。
おそらく私の身体がその大きな力についていけないのだろうとティーアは言った。
この場にメリーがいてくれれば癒しの力ですぐに回復出来るのだけれど……。
「すまない」
「え?」
ぽつりと小さく謝罪の言葉が聞こえて私は目を開く。
「俺に、もっと力があれば……」
彼の小さな両手が膝の上で強く握られているのを見て、私は微笑む。



