――そして、このとき私は自分がこの世界で『聖女』と呼ばれる特別な存在であることをすっかり失念していた。
「彼女は、私のために純粋な善意で動いてくれたんです……」
自分の声がやけに低く聞こえた。
ざわざわと自分の髪がうごめいているのが視界の端に見えたけれど、気にならなかった。
リューの顔が、さっと青ざめる。
「お、落ち着けコハル!」
焦るように椅子から立ち上がった彼が私に向かって両手を広げる。
でも私はその衝動を抑えられなかった。
「そんな彼女を咎めたり罰したりしたら、私は即刻この城から出ていきます!」
「なっ!?」
ドーン!! と、リューの声を打ち消す凄まじい雷鳴が城内に響き渡った。
そして直後、私の視界は闇に閉ざされた――。



