そこに現れたのは、見たことのない男の人だった。
 黒髪に金の瞳。ぱっと見かなりの高身長イケメンだ。

(誰……? ティーアの婚約者、とか……?)

 もしそうだったとしたら、ティーアの口から先ほど突然出てきたコイバナも納得できると思ったのだ。でも。

「話が違いますわ。こちらから伺うとお約束したはず」

 ティーアが怒っている。私の腕の中にいるメリーは怖がっているのか小さく震えていた。
 と、その彼は、私と目が合うとツカツカとこちらに近寄ってきた。
 なんとなく圧を感じて、私もメリーを抱っこしたままソファから立ち上がる。
 彼は私の前までやって来ると、こちらを見下ろしなんとも不遜な態度で言った。
 
「久しぶりだな。コハル」
「え?」

(久しぶり?)

 ということは、彼にも以前に会ったことがあるということだ。
 しかし、思い出せない。
 こんなイケメン記憶にない。
 別にメンクイというわけじゃないけれど、ここまで整った顔なら一度見たら忘れないはずだ。それほどの迫力ある美形だった。

 そんな私の戸惑いに気付いたのだろう。彼は不機嫌そうに眉を寄せた。

「まさか、忘れたわけじゃないだろうな」
「え、えっと……」
「約束通り、迎えに来てやったんだが」

(約束……?)

 ますますわからない。
 こんなイケメンと私は何を約束しただろう。全く覚えていない。
 内心ダラダラと汗をかいていると、彼は私に手を差し伸べた。

「さぁ、共に我が帝国へ。そして我が妃となれ、聖女コハルよ」
「……は?」

 目が点になるとはきっとこういうときのことを言うのだなぁと、私は他人事のように思っていた。