ふと気が付くと、私はまた闇の中にいた。
(ここは……?)
何も見えない。
でも先ほどとは違って不安はない。嫌な感じもしない。
どこかで誰かの押し殺したような泣き声が聞こえる。
その声には、とても聞き覚えがあった。
(リュー、皇子……?)
――そのとき。
月明かりだろうか、優しい光がさして見覚えのある部屋の風景が目の前に広がった。
そこは竜の城の、あの狭い塔の部屋。
その中で、ベッドに突っ伏して泣く彼の姿があった。
震えているその背中に近づいて私は声を掛ける。
「リュー」
その背中がびくりと跳ねて彼がこちらを振り返った。
それはまだあどけなさの残る、おそらくは5年前のリュー皇子。
子供でもない、大人でもない、私の知らないリューだ。
信じられないものを見るように、その金の瞳が大きく見開かれていく。
「コハル……?」
そんな彼に、私は笑顔で頷く。
「はい。リューを迎えに来ました」
そして私は彼に手を差し伸べる。
「一緒に帰りましょう、リュー」
「帰る……?」
「はい。竜の帝国へ。竜の城へ一緒に帰りましょう」



