(あのお城もこの国も、今はリューのものなんだ)

 竜帝の名を継いだということは、そういうことだろう。
 そう思いながら彼の顔をちらりと見上げて。

 ――?

 なにか、少しの違和感を覚えて私は小さく首を傾げた。

「リュー?」
「ん、なんだ?」

 思わず声をかけると彼がこちらを振り向いた。
 そのときにはもうその違和感は消えていて。

「う、ううん。なんでもない、です」
「そうか? 腹が減っただろう。城に着いたら美味い料理をたらふく食わせてやるからな!」

 言われて気付く。
 そういえば昨夜……いや今朝? 殆どお酒しか呑まなかったせいで胃が空っぽだ。

(そっか、お城だもんね。きっと豪華な料理がいっぱい……)

 と、そこまで考えて、ハタと我に返る。

(ちょ、ちょっと待って。リューのお城に行くってことは、私このままリューのお妃になるってこと!?)

 まずい。
 その辺のこと全部うやむやのままここまで来てしまったけれど、心の準備がまるで出来ていない。
 改めて彼の端正な顔を見上げて、全身が熱くなっていくのを感じた。
 
(私、この人と結婚するの? 自分の気持ちもまだはっきりしていないのに? というか私、この異世界で結婚するの……!?)

 彼の居城がぐんぐんと近づいてくる中、私は今更ながらこの腕の中から逃げ出したい衝動に駆られていた。