全身に当たる風に少し慣れてきて必死に瞑っていた目をゆっくりと開いていくと、眼下には絶景が広がっていた。
 ティーアの治める『花の王国』はその名の通り色とりどりの花々が咲き乱れる国。
 視界いっぱいに広がるカラフルな世界に思わず感嘆の溜息が漏れていた。

「空を飛ぶのは初めてだったか?」
「え?」

 声の方に視線を移して思ったよりも彼の顔が近いことに驚き、そしてその首に回していた手を慌てて離した。

「ご、ごめんなさい!」
「いや、構わないが」

(なに抱きついてんの私ぃーー!)

 赤くなってしまっただろう顔を誤魔化したくて、急いで彼からの質問に答える。

「え、えっと、こんなふうに飛ぶのは初めてです」

 修学旅行で一度だけ飛行機には乗ったことがあるけれど。と心の中で付け加えて。

「リュー皇子って……いえ、リュークレウス竜帝陛下って、前こんなふうに飛べましたっけ?」
「リューでいい」
「え……じゃあ、リュー」

 まだ慣れないながらもそう呼ぶと彼は満足そうに頷き続けた。

「あの頃はまだ翼も小さくてな、こんなふうに飛べはしなかった」
「そうだったんですね」
「こうしてお前を抱えて飛ぶのが夢だったからな、今最高に気分がいい!」

 そうして嬉しそうに、少し子供っぽく笑った彼にまたどきりと胸が鳴る。