カネラ王子は第三王子で、三番目の王位継承者。
 ふたりのお兄さんがいる限り、おそらく彼は王にはなれない。

(そのために私を利用しようと……?)

 そこまで考えてハっとする。
 ――だとしたら。
 私はゆっくりと震える唇を開く。

「じゃあ、魔族の話は……?」

 ――敵方に魔族がいたと申す者がおります。

 数日前の、彼の言葉が蘇る。

 ――だから聖女サマ。砂漠の国を助けてもらえないですか?

 だから私は、今こうして、砂漠の国にいるのだ。

「そう言えば、聖女サマならついて来てくれるかなって」

 私の髪を指に絡ませながら彼はなんでもないことのようにさらりと答えた。

 一番聞きたくなかった答えに、目の奥が熱くなる。
 ……悔しい。
 まんまと彼の思惑通りに私は動いてしまったのだ。
 身体の自由がきいたなら、今すぐにでも彼の手を払ってその頬に平手打ちを喰らわせてやりたかった。