……リューは分かっている。
 なぜ私が急にカネラ王子とふたりで話したいと言い出したか。
 そして、私の決意にも気付いているのだろう。

「私、一応これでも聖女ですよ? だから大丈夫ですって」

 いつかのように言ってみたけれど、彼の答えはあのときとは全く真逆のものだった。

「コハルは紛うことなき立派な聖女様だ」
「なんですか、それ」

 小さく笑いながら彼の背中に手を回す。
 すると彼はそんな私を包み込むように抱きしめ返してくれた。

「だが、コハルは俺の妃、竜帝妃だということも忘れないでくれ」
「わかっています。……すみません、従順なお妃様じゃなくて」
「コハルが何にでもハイハイと従うような女ならそもそも妃になどと考えていない。いつかはこういう事もあるだろうと覚悟もしていた。だが、いくらなんでも早過ぎだ。式の日取りがどんどん遠のいていくではないか」

 その恨めしそうな愚痴を聞いて思わずまた笑みがこぼれてしまった。

「ごめんなさい、リュー」

 もう一度謝罪の言葉を口にすると、私を抱きしめる腕にぎゅうと力がこもった。