そして、あっという間に約束の日が来てしまった。
 結局仕事は辞められていないし、魔法石もあのままだ。
 でもこの一週間で自分の気持ちはちゃんと固まっていた。

 ティーアには申し訳ないけれど、もう一度あの世界に行って、もう一度リュー皇子に会って、ちゃんと謝罪しよう。
 あのときはすみません。あなたのお妃にはなれませんと、ちゃんとお断りしよう。

 それが自分の出した、一番納得できる答えだった。

 おそらく召喚されるのは一週間前と同じ夜だろうと思ったが、いつ呼び出されてもいいように私はネックレスを身に着けて出社した。勿論、外からは見えないようシャツの下に。


 でもその日、私が社会人になって一番最悪な事件が起きた。


「どうしよう、せんぱ~~い!」

 化粧室でしくしくと顔を伏せ泣いているのは、先週この場所で私を合コンに誘ってくれたあの後輩だ。
 私は、頭が真っ白になるのを感じながらそんな彼女を見下ろしていた。

「あたし、あの書類がそんな大事なものだって知らなくて~~ついうっかりシュレッダーかけちゃったんです~~」

 彼女がシュレッダーに掛けてしまったのは、取引先の重要な情報が載った書類で。
 それを探し今オフィス内は大変な騒ぎになっているのだ。
 なんで私や他の人に確かめもせずにそんなことをしてしまったのか、問い詰めたい衝動にかられたけれど、なんとかぐっと堪える。
 起きてしまったことを今とやかく言っても仕方がない。気付けなかった私も悪い。最近は特に自分の仕事に手一杯で、後輩にあまり気を配れていなかった。
 彼女も流石に落ち込んでいるようだし、まずは先輩として後輩の心のケアをしなければと私はなるべく優しい声で言う。

「仕方ないよ。私だってミスはするし。私も一緒に謝るから、早く課長にこのことを伝えに行こう」
「本当にごめんなさい~~」

 彼女の華奢な肩をぽんぽんと叩いて、でもこの後のことを考えると頗る気が重かった。