簡素なベッドがひとつと小さな棚がひとつ、それしかない小部屋に足を踏み入れてもう一度呼びかけようと口を開いたときだった。

「なぜ来た」

 抑揚のない、低い声。
 窓の方を向いたままの彼に、私は緊張を覚えながら答える。
 
「なぜって……その」
「また俺に襲われたいのか」

 金の双眸がギラリと煌めいて、瞬間また後退りしそうになる。
 でもなんとか堪えて私は続ける。
 
「勝手にお城を出たりして、心配をかけてすみませんでした」

 そう謝罪する。

「それと、さっきは大嫌いなんて言ってしまってごめんなさい。でも、本当にエル……妖精王とは何にもありません。それだけはちゃんと伝えたくて」

 また、少しの沈黙が流れて。

「なぜ、お前が謝る」
「え?」
「……もう、ここへは戻らないかと思った」

 そうして彼は再び窓の方を向いてしまった。
 
「奴の方がいいなら、妖精の国へ行ってもいいんだぞ」
「!」

 その突き放したような言い方に一瞬、思考が停止する。