「これはね、簡単に言うとコハルを召喚しやすくする魔法石」
「え?」
「召喚魔法ってね、本当はそんなに簡単に使えるものじゃなくて、膨大な魔力を必要とするの。でもこれをコハルが持っていてくれれば、少しだけ楽に召喚出来るようになる」

 私がそのネックレスを受け取ると、ティーアは少し寂しそうに微笑んだ。

「逆に言えばね、それを壊してしまえばコハルは召喚を拒否できるわ」
「え……?」
「あの人には勿論このことは秘密。コハルがこの世界に来てくれたら私だってとても嬉しいけれど。でもコハルにとっては一生の問題だから、じっくり考えて欲しい。それでもしやっぱり嫌だと思ったらそれを壊してしまえば、少なくとも一週間後に召喚されることは絶対にないわ」



「一週間かぁ……」

 ひとり呟いてから私はまずシャワーを浴びるために浴室へと向かった。


 私がこの世界から居なくなって、本気で悲しんでくれる人はいない。
 幼い頃に両親は死に、他に身寄りもなかった私は中学まで施設で育った。
 この世界から突然居なくなっても気付かれにくい人間だからこそ、聖女に選ばれたのではないかと私は勝手に思っている。
 7年前も実は悩んだのだ。帰ろうか、このままあちらの世界に残ろうか。
 でも帰ることを選んだのは、やはりここが自分の生まれ育った世界だからだ。

 そして今、こんな私を受け入れてくれた会社のために身を粉にして働いている――のだけれど。