――それは7年前。

「コハルは、なんで聖女なんて引き受けちゃったの?」
「え?」

 唐突に訊かれて、私は隣を歩くエルを見上げた。
 そこは『妖精の国』の広大で静謐な森の中。
 通称「迷いの森」と呼ばれるその森でまんまと迷っているときに出会ったエルが興味津々といった顔で続けた。

「いきなり異世界に召喚されてこの世界を救ってくれなんて言われて、普通は断ると思うんだけど」
「……私だって、最初はそんなの無理だって思ったよ。今も自信なんて全然ないし」
「じゃあ、なんで」

 首を傾げた彼に、私は溜息交じりに答えた。

「ティーアにお願いされたから」
「ティーアって、花の女王様?」
「そう。すごくいい子なんだ。私と同い年なのに女王様としてめちゃくちゃ頑張ってるの。だから、私も力になりたいって思って」
「ふーん」
「……それに、私これまでこんなふうに誰かに必要とされたことってなくて。どうせ私が死んでも悲しむ人もいないし、ならここで私の出来る限りのことをしようって決めたの」
「そっかぁ。コハルは偉いね」
「偉いねって、子供じゃないんだから」

 私が照れ隠しに嫌な顔をすると、エルは可笑しそうに笑った。