落とされないよう無我夢中でエルの手を握り締めて、辿り着いたのは『竜の都』上空だった。
 ヨーロッパの古都を思わせる街並みがすぐ足元に広がっていて、私はあんぐりと口を開ける。

「散歩って、都を!?」
「来てみたかったんだろう?」

 にこにこと言われて驚く。
 ……一体、彼はいつから私の様子を見ていたのだろうか。

「でも、この格好じゃあ……」

 自分の格好を見下ろす。
 こんなドレス姿ではきっと目立ってしまう。
 聖女だとバレたら大変なことになると言われたばかりなのに。

(それに、勝手にお城出てきちゃったし……)

 でもエルはあっけらかんと答えた。

「平気平気。今僕たちの姿は誰にも見えていないからね」
「え!?」
「じゃあ、下りるよコハル」
「え、ちょ……っ!」

 エルが下降を始めて、私はドレスのスカートが舞い上がらないよう片方の手で必死に押さえ込んだ。


 ふわりと優しく石畳に足が着いて、ほっとする。
 でもそこは大通りのど真ん中で。

(よりによってこんな人の多い場所に……!?)

 ひやりとするが、確かに空から突然降りてきた私たちに驚いている人はいない。
 誰もこちらの存在に気付いていない様子で、すぐ傍らを通り過ぎていく。

「ああ、でも僕から手を離したらコハルの姿は見えちゃうから気を付けてね」
「えっ」

 そしてエルは私の手をしっかりと握り直した。