「大丈夫ですよ」

 私は明るく言う。

「きっとうまく行きます。ちゃんと元の、リュー皇子の大好きな竜帝陛下に戻りますって」

 すると、こちらを振り返った彼は心底呆れたような顔をしていた。

「……お前、なんだってそんなにお気楽なんだ。明日、あの竜帝と戦うんだぞ」
「だって、私一応これでも聖女ですよ? だから大丈夫です!」

 本当は私だってめちゃくちゃ恐い。少しのミスが死に繋がるのだ。
 でも今の彼の前では、年上らしく余裕ぶりたかったのだ。

「一応これでもって……自分で言うか?」

 彼は脱力するように肩を落とし、それからもう一度城を見上げた。
 そして――。

「父上のこと、よろしく頼むぞ。コハル」
「! 任せてください!」

 このとき初めて彼が私の名前を呼んでくれて、やっと認めてくれたような気がして、なんだかものすごく嬉しかったのを覚えている。



 ――あの頃の、夢……?

 けたたましく鳴り響いているスマホに手を伸ばし、画面をタップしアラームを切る。
 のそりとベッドから起き上がって、私はすぐ傍らの机の上に目をやった。そこに置いてあるものを見て、私は溜息を吐く。

(昨日のは夢じゃなかったか~~)

 それは小さな黄金色の宝石の付いたネックレス。
 昨日、こちらの世界に戻ってくるときにティーアが持たせてくれたものだ。