こんな声、自分でも聞いたことなかったのに。
 キスだって、こうして身体を触れられるのだって全部、リューがはじめてなのに。
 恥ずかしくて、悔しくて、涙が溢れた。

 ――パンっ!

 そんな乾いた音が部屋に響いた。

「……コハル?」

 赤くなった自分の頬に触れ、リューが呆然と私を見下ろす。
 私はそんな彼を睨み上げて言った。

「こんなリューは、大嫌いです」
「!」

 リューは目を見開いて、私を押さえこんでいる手から力が抜けるのがわかった。
 私はそんな彼から抜け出し、床に落ちていたブローチと小箱を拾いそのまま扉の方へと走った。
 はだけていた胸元を直して扉を押し開けると、すぐそこにセレストさんが立っていて目が合う。
 私はすぐに背を向けてまた走り出した。

(最っ悪だ……!)

 頬に伝っていた涙を乱暴に拭って、私は顔を俯かせて急いで自室へと向かった。



「コハルさま!? どういたしました?」

 自室に駆け込むと、メリーがびっくりした様子でこちらにふわふわ飛んできて、私はそんなメリーをぎゅうと抱きしめた。

「なんでもない」
「……なんでもなくは、なさそうなのですが」
「ううん、本当になんでもないの。ごめん、ちょっと疲れちゃって」

 メリーを抱きしめたままソファに腰を下ろしてふぅと息を吐く。
 テーブルにブローチの入った小箱を置いて、でもそのとき自分の手がまだ小さく震えていることに気が付いた。