エルは案の定ぽかんとした顔でリューを見返して、でもそれから口元を押さえてくくっと肩を震わせた。

「妻? まだ契りを交わしてもいないのに?」
「!?」

 リューの顔つきが変わった。
 その意味に一拍遅れて気づいた私は思わず悲鳴のような声を上げていた。

「ちょっと、何言って!?」
「わかるよ。コハルはあの頃と変わらず綺麗なままだからね」
「~~っ」

 恥ずかし過ぎて私が口をぱくぱくとさせていると、エルはリューの方に視線を戻した。

「悪かったよ。そんなに怖い顔をしないで、竜帝くん」
「……」
「安心したんだ。君が、本能のままにコハルを穢すような竜人じゃなくて。うん。我が『妖精の国』も君らを祝福するよ」

 しかしリューは何も返さない。
 そんな彼に薄く笑って、エルは続けた。

「まぁ、もしこれがコハルの望まない結婚だとしたら、話は別だけどね」

 どきりとした。
 エルはもう一度私を見てにっこりと笑うと、くるりと背を向けた。

「さて、一先ず用は済んだし、これでお暇するとしようかな。あぁ、でも折角来たし少しの間この国にいさせてもらおうと思うんだ」
「えっ!?」

 私が声を上げると、彼はもう一度こちらを振り向いた。

「コハルとあの頃の積もる話もしたいし。そういうわけで、少しの間この城に厄介になるよ。よろしくね、竜帝くん」

 そうして、彼は謁見の間を出て行ってしまった。