それは、お客様との談話の最中だった。

 謁見の間の扉がノックされ、入ってきたセレストさんは扉の前で一礼すると早口で言った。

「失礼いたします。陛下に至急お伝えしたいことが」
「どうした」

 セレストさんはリューの元へと急ぎ駆け寄ると、小さく耳打ちをした。

(どうしたんだろう)

 あのセレストさんがとても深刻そうな顔をしていて、余程のことだとわかる。
 するとそれを聞いたリューの顔色がさっと変わった。

「いつだ!?」
「それが、もうお越しで」
「……っ」
 
 リューは小さく舌打ちをしてから勢いよく立ち上がると、今話していた都で貿易商を営んでいるというお客様に丁寧に謝罪した。

「大変申し訳ないが急ぎ用が入ってしまった。話の続きはまたの機会で構わないか」
「は、はい、勿論でございます。今日は陛下と聖女様にお会い出来ただけで……」

 そうしてその人は何度も頭を下げセレストさんに案内されて部屋を出て行った。

「リュー、何かあったの?」

 ちらっと聞こえたセレストさんとの会話で、誰かが来たらしいことはわかったけれど。
 見上げたリューはなんだか怖い顔をしていて胸がざわついた。

「忌々しい奴が来た」
「え?」

 低い声で言って彼は私を見下ろした。

「コハルはこれまで通りで構わない」
「わ、わかりました」

 なんだかこれまでとは全然違う雰囲気で、こちらにも緊張が走る。