「聖女コハルよ。よく戻られました」
「はい?」

 その聞き覚えのある鈴を転がすような声に顔を上げると、怪しいローブを纏った人たちが私を取り囲んでいた。
 薄暗い、石造りの静謐な空間。今の今まで寝ていたはずのふかふかのソファも魔法陣の描かれた硬い石の床に変わっていて。
 そんな突然の変化にもパニックにならなかったのは、この場所、このシチュエーションに覚えがあったからだ。

 ――そう。あれは7年前。

 高校2年生の頃、私、佐久良小春(さくら こはる)は突如異世界に召喚された。
 そこは魔法や竜の存在する、小説やゲームに出てくるようなとても美しく幻想的な世界だった。
 しかし、魔王の復活により魔物が世界に溢れ、人々は窮地に陥っていた。
 そこで私が世界を救う伝説の『聖女』として召喚されたのだ。
 真面目なだけが取り柄の平凡な私だけれど、その世界では奇跡の力を発揮しなんとか魔王の封印に成功。その世界に再び平和が訪れた。
 そして聖女として立派にその役目を果たした私は、皆に惜しまれつつも無事元の世界……日本に戻ったのだった。

 それから7年の月日が流れ。

 24歳になった私は立派な社畜として忙しい日々を送っていた。
 今日もサービス残業を終え吹けば飛ぶ枯れ枝のようになって帰宅。
 とりあえず化粧は落とし、シャワーはもう明日でいいかとスーツの上着を脱いでソファにダイブした、その瞬間だった。

「聖女コハルよ。よく戻られました」

 その懐かしい声が聞こえたのだ。

(あの頃の夢? にしてはやたらリアル……)

 私はゆっくりと起き上がって、その場所を見回す。
 間違いない。7年前、私が召喚されたときと同じ場所だ。確か『聖殿』とか呼ばれていた建物の中の『召喚の間』。