特に夫人と結婚してからは、ルセック伯爵は多額の支援金を彼女の実家、つまりこの『鉄血伯爵』と呼ばれるチャール伯爵から受け取っており、頭が上がらなかった。

 そんな状況下での不倫発覚。
 もうルセック伯爵にとって最大のピンチと言っても過言ではない。
 その場にへたり込んだ彼は、チャール伯爵の形相に恐れをなしてがくがくと震えながら何も言い返せずにいた。
 チャール伯爵のすぐ後ろには、ルセック伯爵夫人がふん、といった様子で腕組みしながら夫を見ている。

「君を信用して多額の支援をしたんだよっ!! まさか恩を仇で返すとはなっ!!」
「違うんですっ!! これにはわけが……!!!」
「不倫にわけも何もあるかっ!! うちの娘を悲しませた罪は重いぞ?!」
「ひいいっ!!!!!!!!」

 鬼のように憤慨して真っ赤にした顔がルセック伯爵の顔に近づけられ、彼はもう虫の息。
 その様子を見てルセック伯爵夫人は、いい気味ね、といった感じでにやりとその赤い紅で彩られた形のいい唇を動かして笑う。